2014年7月 池の鯉

20147月 池の鯉
 今から30数年前,厚木に家を建てたころ庭の隅に1.5坪ほどの池も作った.息子が小学4年生頃の秋のことである.家が完成間近かのころ,息子が縁側に沿って,鍬とシャベルで地面に穴を掘りだした.何をするのかと尋ねたら池をつくるんだという.まあいいかと成行きに任せていたら,1か月位過ぎたころ幅60cm, 長さ1.5 m,深さ50cm位のかなり大きな穴になった.これに気づいた大工さんから,こんなに縁側近くに池を作ったら,湿気ですぐ土台が腐ってしまうといわれたので埋めさせた.宅地は山を切り崩してできた団地であったから地山がでており茶色の粘土質の固い土だった.せっかく苦労して穴を掘ったのに埋めもどさせられた息子は悔しかったことであろう.代わりに,新築祝いにと父が植木屋を入れてくれた機会に庭の隅に上記の池も作ってもらったのである.ここに息子は釣ってきたフナやハヤを放した.私もこんなことが大好きだから,当時あった神奈川県水産試験場から,黒い鯉や錦鯉を買ってきて放した.数年たち大きくなった黒い鯉は鯉こくにして食べた.紅白や大正三色(白地に赤と黒が散らばって模様を描いている.大正時代に種が定まった)といわれる錦鯉も大きくなったが,数年たつと猫やハクビシンにやられたり,自分で跳ねて池を飛び出し死んだりした.そのたびに水産試験場厚木市内にあった養殖場やペットセンターから買ってきては補充した.猫が来ないようにと犬を飼った.どれが良いか,素性のよさそうなのを選ぶと店屋の親父さんから「お客さん,見る目がありますね」などとおだてられた.鯉の見方はこんなことが好きだったから父に教わったのである.紅白は単に白と赤色があればよいのではなく,それらがバランスよく左右に散らばっているのが良いのである.私の郷里の小千谷は錦鯉の産地で多くの養魚場がある.春,孵化した鯉が数cmに成長したとき選別され,筋のよさそうなのだけ残される.今はどうなっているかわからないが,私の子供のころは選に外れた小鯉は川に放たれた.釣りに行くとときどきそのような色付きの小さな鯉が釣れた.
コンクリート製の池は5-6年経つとひびが入って水漏れが起こる.そんな時は鯉を近くのやはり鯉の愛好家のところに1か月位預かってもらい,池を空にしてから修理をした.ホームセンターから耐水セメントを買ってきて,水で練り,ひびなど肉眼では見えないから勘で疑わしいところに塗った.米ぬかを水面に撒くとその動きで水漏れ個所がわかるといわれるが,そんな動きもないほどのかすかな水漏れ個所を探り当てるのは容易ではなかった.1回で済めばよいが,水漏れが止まらないときは何回か,セメントを塗っては水を入れ,水漏れが止まるまでこれを繰り返した.ある時の水漏れは冬,たまたま,みぞれ交じりの雪が降っているときで,寒さで指が痛いほどのなか.セメントを塗りながらなんでこんな阿保なことをしているのだろうかと思ったものである.今年の春,また,数年ぶりで水漏れが起こってしまった.3.11大震災で釜石を引き上げてきた息子一家が1年ほどここに住んだが,その間にも増えた鯉は,その後春日部に引っ越した息子のところに預かってもらった.彼も春日部の自宅に1年位かけて大きな循環水式の池を作ったのである.やはり,当初は水漏れが止まらず,工事を引き受けた土建屋さんは契約額以上に工期が長引き大損をしたことであろう.今回の我が家の池の水漏れにはずいぶんてこずった.ホームセンターから購入した10 kg入りのセメントでは足らず,さらに買い足した.今度こそはと期待を込め池を満水にし,翌朝見ると喫水線が下がっているとがっかりした.それでも何回かセメント塗りを繰り返すと水面が徐々に上がり,漏れ個所が池の上部に追い詰められていった.結局,5回くらいセメントを塗り直し,6月末にようやく水漏れが止まった.息子の所に預けた鯉を取り戻すのは忍びないので,去る7月初め帰省した折,小千谷養殖場兼販売店から紅白,大正三色,黄金のいずれも20 cm位のを3匹購入し,宅配便で送ってもらった.荷を解いたら,店で購入したのとは異なる白銀色のが1匹と大正三色2匹入っており,傷がついていたので代わりのを送りますとメモが入っていた.1匹は紅白にしてほしかったが,黙って受け入れた.30分くらいビニール袋に入れたまま池の水温に慣らしてから,池にはなったら元気よく泳ぎ出した.ところが5日程して先週の土曜日に行ってみたら,大正三色が1匹死んでいた.十分あく抜きをしたつもりだったが,足りなかったのだろうか.あと2匹が生き延びてくれるとよいが.息子に話したら,夏の鯉は死にやすいといっていた.お盆に帰省した折に,また1匹,今度は紅白を購入するつもりである.妻はばかばかしいと相手にもしてくれない.