2016年1月 誤解を誘う巧みな表現

20161月 錯覚を誘う巧妙な表現
 
「竿やー,竿だけー,5本で1000円,10年前の値段です」言葉遣いは少し異なっていたかもしれないが,ひところ,厚木の家のあたりでも良く見かけた小型車にマイクを付け,洗濯物等を干す物干し用の竿を売るために走り回っていた竿竹売りの声がこの頃は聞かれなくなった.家庭の主婦が,ちょうど竿竹が折れたり,古びたりしてきたので買い変えようと注文し,いざ支払いの段になったら,数万円を要求され,「だって,5本で1000円と言っていたではないですか」と抗議すると「それは10年前の値段です.今は物価も上がって」とすごまれ,泣く泣く言い値で支払ったという話を良く聞いた.確かに嘘ではないが,つい釣り込まれてしまう言葉遣いである.これと似たような例をいくつか挙げよう.
 最近,テレビを見ていて気が付いた.有名人や使用者のコメントが付く化粧品やサプリの広告である.フリーダイアル番号を示し,今すぐご注文ください.1時間だけオペレーターの人数を増やし,お申し込みを待っています。送料無料,おまけつきなどと言って,視聴者の購買欲をあおる例のコマーシャルである.画面をよく見ると隅の方に“効用,効果を保証するものではありません.使用者個人の感想です”と書いてあるのである.これに気付いている方はおられるだろうか.うかつなことに私は最近知ったのである.巧みな逃げ口上というか,自身を守る仕掛けは作られているのである.テレビの推理ものなどの終わりには必ず「これはフィクションです」と現れるのはもう約束事でいかにも白々しく,誰もその物語を事実とは思わないであろうが,上記の広告は如何にも騙されやすいのである.騙されるとは少し誤ったきつい言い方かもしれないが,そのことに悩んでいる視聴者はついつい購入したくなるのである.
 オレオレ詐欺もそうである.毎日,夕方6半過ぎにNHKのテレビでは,とてもチャーミングな橋本菜穂子アナウンサーがもう1年以上にわたって,注意を呼び掛けているが,一向にその被害件数が減る気配もない.ちょうど我が家の夕飯時である.世の中にはただちに数百万円もの大金を動かせるお金持ちが多いものだなと改めて思うのである.妻は「どうして騙されるのかしら,私のところにかかってこないかな.騙されたふりをして犯人をとっつかまえてやるから」と息巻いているがその気配もない.そんな預金があるはずもない我が家に電話がかかってこないのは当然のことである.嘘かほんとか,犯人たちの間には,デパートで高額の買い物をするお得意さまリストが漏れているとか.一度「お宅の息子さんが横浜駅で痴漢の疑いで確保されています.もし,そのことが知られたくなかったら云々」と電話がかかってきたことがあった.そのころ,岩手の方に勤務していた息子が横浜近辺にいるはずもないと妻はすぐ電話を切ったそうだが,高校の同窓会名簿が出回っているらしい.最近,「オレオレ詐欺でないけれど,俺だけど」と息子から電話がかかってきたと妻が言っていた.
 数日前,六本木の森アーツセンターギャラリーで開催中の“フェルメールレンブラント17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち展”を見に行った.私はインターネット情報で承知して行ったのだが,「フェルメールレンブラントの作品がそれぞれ1枚づつしかなかった.詐欺だ,詐欺だ」と妻は怒っていた.せめて数点くらいづつ展示されているものと彼女は思っていたらしい.
 しかし,以上の例に比べ,最も気を付けなければいけないのは,影響力の大きい政治家の発言である.聞き誤ると我が国がとんでもない方向に行ってしまう.