2017年7月 ブリューゲル”バベルの塔” 展

20177月 ブリューゲルバベルの塔」展
 
 去る6月中旬,大雨の中,東京都美術館で開催中のブリューゲルバベルの塔」展を見に行った.妻を誘ったが,彼女はこれまで体験している絵画展のあの人混みを思い出すと嫌だと断られたので一人で行った.ちょうどシルバーデイとかで高齢者は無料,思わぬ拾い物をした.930分の開館を目指していったのでそれほど待つこともなく会場には入れた.さすがに“バベルの塔”の前はすごい人混みだったが,そこだけ絵の前にロープが張られ,立ち止まらないようにという案内人の指示のもと,ゆっくりと人の群れが流れ,間もなく目的の絵の前にたどり着けた.ただし,立ち止まれないからゆっくりとは見られない.列から外れロープの外に出,持参した双眼鏡で今度はゆっくりと見た.圧倒されるようなすごい絵である.雲を突き破り,建設途中の巨大なレンガつくりの赤褐色の塔が描かれている.離れてみると点のようにしか見えない作業中の人物も双眼鏡の視野の中ではちゃんと手足が描かれ,それぞれの作業に応じて何をしているかが解る.巻き上げ機や滑車など高層建築に必要な機材も詳しく描かれている.正確な数を忘れてしまったが,確か千人以上の人物が描かれているとか.よくまあ,数え上げたものだ.ブリューゲルは生涯に3回,バベルの塔を描いたといわれている.最初の作は失われ,現存するのは後の2枚,今回の展示品は他の作品も含めてすべて,オランダ,ロッテルダムのボイマンス・ファン・ブーニンゲン美術館所蔵のもので16世紀半ばの2番目の作品である.私は1563年制作といわれるウイーンの美術史美術館所蔵の3番目のバベルの塔も見たことがある.今から20年ほども前だっただろうか,学会でハンガリーに出張した折,ウイーンに立ち寄ったのである.ここにも何点かのブリューゲルの作品があった.私が最も好きなのは“雪中の狩人”である.夕暮れ時,3人の狩人が10数匹の犬を連れて狩りから戻り,これから我が家に帰っていく途中の崖の上にいる構図である.不猟だったらしく,獲物は猟師の1人が背中に吊るしている狐1匹,3人も犬達も頭を垂れている.崖の下の凍った池ではスケーをする人たちが,さらにその先に教会や家が点在し,遠景は雪の積もった鋭い峰の連なった山々である.無意識のうちに近寄って額縁に接するようにこの絵を見ていたらしく,センサーが働き監視員が駆けつけてきて恐縮した.
小学生のころ住んだ我が家は街の大通りから外れた里山近くにあった.冬の雪晴れの夕方,スキーをしている子供たちの傍らをかんじきを履き,鉄砲を担ぎ,細縄で編んだ袋を背負った猟師が通り過ぎることがあった.袋の中にはウサギや雉が入っていた.上記の絵が好きなのは子供のころ体験したこの光景からの連想かもしれない.コピーを額縁に入れ,画集とともに時々眺めている.