2013年12月 景気回復は本当か

 現役のころに比べたら少なくなったが,12月に入って数回タクシーに乗る機会があった.私の興味で,乗車すると運転手さんに「最近の景気はいかがですか.乗車率は上がっていますか」と尋ねることが多い.すると異口同音に「全く駄目です」との回答が来帰ってきた.ある運転手さんは「先日,中小企業の社長を乗せたが,大企業は円安や株の値上がりで儲けているが,内部留保ばかりしてわれわれのほうは相変わらず,コストダウンンを迫られている.これでは従業員の給料を上げたくてもとてもできないと日本を代表する某企業の名を挙げて非難していましたよ」といった.運転手さんたちは,少しは景気の上向き傾向を感じていても,長年の防御的な発言の習性が身に付き,つい否定的表現になるのだろうか.工業新聞や経済新聞の記事やアンケート結果には景気回復を実感するとの回答が50 %を超えているものが多い.どちらが本当なのだろうか.よく記事を見るとアンケートに答えているのは一部上場の大企業のトップが多い.大企業が利益を上げているのは確かである.名の通った超一流企業の売り上げや利益は過去最高といった記事が多い.しかし,それが中小企業にまで下りてきていないのが実態なのではなかろうか.中小企業は独自の高度の技術を開発して,大企業の言いなりにならないようにというのは簡単であるが,これは一般には至難のことであろう.私がこの春まで関係していた新潟県燕三条のある金属加工メーカーの売りは高度のレーザー加工技術の保有である.今から20年ほど前,レーザー加工の重要性に気づき,ドイツからレーザー発光装置を輸入し,長岡高専のある先生と共同研究を続けて来た結果,今では数マイクロメートルの厚さの銅,鉄,ニッケルなどの薄板に10マイクロメートル程度の微細な穴をバリや円周のえぐりもなく垂直に開けられるようになっている.この技術の応用の一つが携帯電話のケース板である.携帯電話のケース表面には音がよく聞こえるように網のように微細孔が開いている.そのため,うっかり水中に落とすとこの孔から水が入り,故障の原因となる.しかし,孔径がある値以下に小さくなると表面張力のため水が入らなくなる.そこで,通常のケース板は100円ていどなのに,レーザー加工ケース板は11000円でも飛ぶように受注があるとか.値下げを要求されているが断っているという.さらに現在,この穴あけ技術を高分子フィルムに適用しようと研究開発中である.今後大きな需要が期待されている大型リチウムイオン二次電池キャパシターのセパレータに適用しようというのである.
政治家,ジャヤーナリズムはどうか上の方ばかり見て情報を入手したり,失業率が減った,鉱工業生産額が上がった,金融収支や輸出額が増えたといったマクロ的な数字のみを見て状況判断するのではなく,一般庶民の下々の生活状況,雰囲気を具体的に感じ取ってほしいものである.申し訳ないが,年金生活に入っている私には,給料の賃上げ,賃下げは直接関係がないが,今働き盛りの家族を支えて必死に働いている現役の人たちにはベースアップの要求はのどから手が出るような願いであろう.また,正規雇用者の増加を切に希望したい.