2013年11月  上海・蘇州への旅,その2

201311月 上海・蘇州への旅,その2
 
 上海での学会の終わった翌朝,蘇州大学の李教授が迎えに来てくださった.李先生は数年前,私の研究室でポスドク(博士研究員),招待研究員として都合3年間過ごされ多くの論文を書き上げたのち,いきなり蘇州大学の教授に抜擢された.私は先生のご厚意で3年ほど前,同大学の客座教授に任命された.そのおかげで,毎年同大学を訪問している.この3月までは,私の研究室出身の金子博士が李先生の研究室でポスドクとしてお世話になった.前回は先生が車(日産のティアナ)で来られたが,渋滞がひどいため今回は新幹線で来られた.先生の案内で上海から蘇州まで乗車時間約30分の新幹線に乗った.駅構内はとてつもなく広く、かつきれいに掃除され清潔な感がした。料金は39.5元,すべて座席指定(1元は約18円,約611)で日本に比べかなり安い.日本の場合,新横浜-東京間は約18分で自由席1,320円である.切符購入時に外国人はパスポートの提示を求められた.また,荷物はすべてX線でチェックされた.職員の態度は横柄で,切符売り場の女性職員は笑顔一つ見せず,きつい声で客と応対していた.改札口では切符にスタンプを押されたが,その際,男子職員は椅子に座ってそっくり返り,客に切符を台に載せるよう指示し,客に切符を抑えさせたまま,片手でスタンプを押していた.親方日の丸の国家公務員だからだろうか.李先生によれば,今,国鉄は民営化,国鉄のまま,その中間の3種類の経営体制に分割する案が検討されているとか.国土があまりにも広いため,すべて民営化すると不採算路線は廃止される危険があり,また,保守点検等費用が掛かりすぎ民営では運営しきれないためだという.土地が広いと日本では考えられない新たな問題が発生するものである.電話なども固定電話が普及するより先に携帯電話が普及してしまった.銅線泥棒のために長い距離間の電話線がすぐ盗まれてしまうためである.
ホテルに着いてから一人で蘇州市内を散歩した.小学校前を通ったら,多数の親や祖父母が下校時の子供を待っていた.翌日,李先生にその理由を尋ねたら一つは交通事故から子供を守るため,もう一つは誘拐を防ぐためという.上海でも蘇州でも車の運転はすさまじい.交通信号が赤,横切る歩道のほうは青でも平気で車は侵入してくるし,車線変更時も方向指示なしで変更するし,ぶつかってくるかと思うほどのスピードで接近してくる.誘拐のほうはそれを目的とする専門集団,あるいは農村から出稼ぎに来て,金に困った人が行うとか.身代金を要求するのではなく,アングラ組織に子供を売ってしまうのだそうな.子供がいない人がそのような子供を養子にするためにニーズがあるという.
 中国の大学では論文を発表すると1報ごとに論文掲載誌のインパクトファクター(論文引用頻度から計算される,その雑誌の与える影響度合いの指標)に応じて著者に報奨金が支払われる.蘇州大学では,我々がよく投稿する電池関連のJ. Power Sourcesに論文が掲載された場合、1報あたり,30,000元が支払われ,1/2が研究費に,残り1/2がボーナスとして翌年個人に支払われる.研究設備が充実し,論文の出しやすい環境にある北京大学などではもう少し低い金額とか.特許は出願すれば1件,2,000元,成立すればさらに5,000元支払われ,李先生は昨年,8報の論文と8件の特許出願をされたという.ポスドクとして滞在した金子君もこれに5報ほど協力した.
 一夜,先生の招待でご家族と一緒に食事をした.二人のお子さん(男女各1)はともに日本生まれ,もう小学5年と6歳の幼稚園児である.上のルカちゃんはすっかり女の子らしくなり,最近蘇州市の作文コンクールで特別賞、ピアノコンクールで金賞を得たとか。日本滞在時,幼稚園に通い,日本語は日本の子供と同じように巧みになったが,今はほとんど忘れた.下のチャーユーちゃんは私の研究室在任中に,中国政府の一人っ子政策を逃れるために生まれたと言ったら語弊があるが,国外で生まれた場合は2人でも受け入れざるをえないのである.彼は昨年じっと考え深そうに私を見て「老師,ロースイ」と言った。今年も何やら父親にささやいていたので,私が李先生に尋ねたら,「佐藤先生は中国語のどんな言葉を知っていますか」と言っているのだとか.謝謝とニイハオしか知らない私は恥ずかしかった.二人ともとてつもなく優秀で末恐ろしいほどである.李先生もトライリンガルで日本語と英語がペラペラ,記憶力抜群で今も手帳無しで,とてつもない多忙なスケジュールや多数の人名がみな頭の中に記憶されている.ご夫妻に蘇州市内を案内していただいた.その際の写真,2枚を載せて本稿を終わる.
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