2015年12月 ホチキス

201512月 ホチキス
 
 去る11月研究室出身者の集まりが,永年一緒に仕事をしてきた小早川さん
(神奈川大学助手)のお世話で開かれた.そのOB会でのことである.出席者全員が一人ずつ近況を報告した.それぞれ日々一所懸命仕事をしている様子が伺われ,大変興味深く,かつ勇気をいただいた.その中の一人,N君の話である.彼は去る3月,めでたく博士(工学)の学位を取得し,博士研究員(ポスドク)として活躍中である.来春からは新しい就職先も決まっている.また,非常勤講師として講義や化学実験を担当している.ある時,学生たちの提出したレポートの中に2枚の用紙からなるレポートが綴じられないで重ねたままで提出されたので,皆の前で「こんな時はバラバラになり,紛失する恐れがあるからホチキスで閉じてから提出するように」と注意したところ,別の学生がすかさず「1枚のときも綴じるのでしょうか」と質問したとか.彼は開いた口がふさがらなかったと言っていた.この話で会は盛り上がり,S君が続いて発言した.彼は某大手企業の秘書室で社長付きの秘書として活躍中である.「秘書室で仕事をするようになってから,ようやく昔,小早川先生がレポートはホチキスで閉じず,ノリで張り付けてから提出するようにとくどいくらい注意されていたわけがわかりました.会議等に提出する資料をホチキスで閉じ,積み重ねるとすぐ山が崩れてしまうんです」と言った.ホチキスで紙を閉じると裏側で針の両端がメガネのように折れ曲がって盛り上がり,積み重ねると閉じた部分が高くなり,ついに重ねた書類が崩れてしまうのである.
 この盛り上がり,つまり閉じたときの裏側で針がメガネ型になるのを防ぐためフラットクリンチ型と呼ばれる製品が市販されている.これを使用すると,裏側が平らに綴じられるため、書類の厚みを少なくできる.
 ところで,このホチキスの綴じる部分と反対側に付いている赤ちゃんの爪のような形をした平らなヘラ状の金属板の役目をご存知だろうか.リムーバーといい,書類等に綴じられた針を除去するためのものである.不覚にして,私は長くこのことを知らなかった.針を除去する際,このヘラを針と紙の隙間に差し入れ,テコの要領で持ち上げるのである.白紙の裏側を再利用しようという殊勝な心掛けで,いきなりリムーバーをさしこみ針を持ち上げると紙の反対側の針先で紙が引っ掛かり破れてしまうので,そのよう場合はあらかじめ裏側の両方の針先を垂直に持ち上げてから針を抜かなければならない.せっかちな私はいつもこのことを忘れ,いきなり針を持ち上げては紙を破り,あとで舌うちしている.
 ついでにホチキスにまつわる雑談を述べる1).ホチキス,またはホッチキスはマジックインクやセロテープのように商標が一般名化した例で,明治時代,アメリカのホッチキス社から輸入されたHotchkiss No.1というモデルに由来するという.我が国と韓国のみの特有の名称(後者は日本の統治時代の影響という)で,米国等でこの名称は通じず.ステープラー(stapler)が一般的な名称である.ホッチキスはベンジャミン・ホッチキスによって機関銃の構造を元に設計されたといわれることがあるが,これは俗説という.詳しくは下記引用文献を参照されたい.
 学生の素朴な質問で思い出したが,大学教師をしている息子から聞いた話である.
あるとき,卒業論文を書いていた女子学生が「先生,卒論の中にニコニコマークを書き入れてもいいですか」と質問してきたという.彼がどう答えたのか結論は聞いていない.
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