阪東橋界隈から 2013年5月

20135月 ウオッシュレット
 
ウオッシュレットもカラオケ、即席ラーメンとおなじように我が国が世界に誇るべき発明かと思っていたが、米企業が医療用に開発した温水洗浄便座「ウオッシュエアシート」をTOTOが輸入販売、他社委託で国産化したのが発端という。その名前の由来は「レット・ウオッシュ、(お尻を)洗いましょう」を逆転したものとか。ネーミングも巧妙であり、その後、他の技術と同じように我が国独特の凝り様で進化発展してきた。当初は多量の水が必要であり、これでは日本の水道、下水処理事業が破たんをきたすと言われたようであるが、技術者たちの血のにじむような努力のお蔭で、水消費量も著しく少なくなった。大便を流すのに必要な水量は2012年の製品で3.8リットル、2002年の製品の8リットルから半減した。このような急速な進歩を支えたのが勘と経験に頼ってきた実験や試作の回数を減らし、独自の水の流れを再現するシミュレーション技術で便器内側のカーブの形や水の渦巻き具合などを改良してきた賜物という。現在も改良中でスパコンの活用により便器表面の薄い膜のような水流や人の目では見えない水中の小さな泡まで再現できるようになっているという1)。世帯普及率は2012年で73.5 %、すっかり一般家庭の生活必需品になりつつある。11年度の出荷台数は364万台、推定金額は2185憶円2)、今後成長の舞台は買い替え中心の国内から海外に移りつつあるという。私はこのウオッシュレットに初めて触れた時、しめたと思った。お蔭で持病のイボ痔が直った。若いころ、ある朝、便に鮮血を見、胃潰瘍が悪化したかと病院に駆け込んだが、痔と判定され一息ついた。しかし、長い間、痛みと不快感に悩まされたが、ウォッシュレットを使用するようになってから徐々に治癒した。ウォッシュレットのお蔭でどれだけ多くの人たちが救われたことか。しかし、この普及も海外は未だのようで、昨年行ったサンジェゴ、フォートローデタール、上海、蘇州等の一応名の通った高級ホテルでもウオッシュレットは設置されていなかった。
話は変わる。孫が未だ小さかった3歳のころ、「うんこ」という絵本を買ってあげた。像、カバ、クジラ等の大きな動物からゴリラ、チンパンジー、猿、牛、豚、小動物のネズミ等の糞、最後に人の便が絵入りで載っていた。彼はこの本がとても気に入ったようで、ある時 「僕、毎朝トイレに行くのが楽しみなんだ」といった。今日はどんな形状のうんこが出るのか、興味しんしんだったようだ。便の形状、色、艶、匂い等はその人の健康を示す大切なシグナルである。私も血便が出ていないか等注意しているが、昨今のウオッシュレットは進化しすぎ、困ったものである。便座から腰を持ち上げた途端、センサーが感知し自動的に水を流してしまう。これでは自分の排せつした便の状態を確かめる間もなく流れ去ってしまう。あまりの進化は考えものである。
1) 朝日新聞201359日朝刊
2) 日本経済新聞2013224日朝刊