2022年11月 敬老パス

 横浜市では長年にわたって70歳以上の老人に敬老パス(敬老特別乗車証)なるものが支給されている。市から連絡のあった対象者に、希望者は年収額に応じ、数千円を支払うと敬老パスが配布されるのである。このパスを提示すれば、市営地下鉄、市内を走る市営、及び民間のバスに無料で乗車できる。私にはありがたい制度で、計算したことはないが納付額以上に利用していると思われる。願わくはJR、民間の鉄道にも、横浜市区間だけでも適用されるとありがたいのだが、これは欲張りか。

このパスが従来は紙製であったが、10月からICカードに切り替わった。利用者人数、利用区間等を調べ、適正な利用者負担額を検討するためであるとか。IC化の目的は解るが、私には従来より使いにくくなった。カードが磁気化されたため、これまでのようにSuicaと同じビニール製パス入れには入れられなくなった。また、従来は地下鉄の改札口で駅員に見せたり、バスの場合は運転手に見せるだけでよかったが、10月からはこのICカードを乗車時に改札入口と降車の際、改札出口で専用の読み取り機にタッチさせる必要が生じた。読み取り機のガラス面にパスをタッチすると画面の青色の蛍光が瞬時に黄色に変わり、情報が読み取られたことを知らせる。ただし、Suicaの読み取り機とは共用できないので(技術的に不可能なのだろうか)、別の専用読み取り機が乗車の際の改札入口と降車の際の改札出口にそれぞれ設置されたのである。その設置場所が乗降客の混雑を避けるためか、入口、出口とも改札口から数メートル離れたところに設置されたので、わずかではあるが遠回りをしなければならない。これがわずらわしい。降りる際などめんどうくさいのでタッチせず素通りしたこともある。乗客は慣れていないので入口と出口に案内人が終日配置された。地下鉄の駅の数はブルーラインで32駅、グリーンラインで10駅なので、案内に投入される員数は84人、横浜駅など、改札口が2カ所ある駅もあるので動員数はそれ以上、膨大な人件費がこれに費やされていると思われる。

10月末には各人宛、私のところには妻宛と2通の封書で市役所から、「敬老パスの有効期間は10月から翌年9月までです」と知らせる、念の入った通知が届いた。利用者は永年の慣例から、こんなことは暗黙裡に承知していることだろう。心配なら、各駅に張り紙でもすれば十分である。行政には文句を言いたいことがたくさんあるが、こんなことに妙に律儀である。こざかしい役人が失敗を問われないための防御として、安易に税金を無駄使いしている。横浜市の人口は約300万人、その2割の60万人が対象者として、5千万円近い郵送費が税金で賄われたことになる。

さすがに11月からはパス読み取り機の設置場所が、駅員の籠る有人改札窓口に設置され、乗客は出入りの際の無駄な動きをせずに済むようになった。ただし、11月も半ばを過ぎたが、相変わらず案内人は未だ付いている。

細かいことを言うと読み取り機のガラス窓の設置角度を統一して欲しいものである。読み取り機の設置角度が垂直の駅と水平な駅がある。横浜駅は前者、私の利用する阪東橋駅は後者である。利用しやすさから言えば斜め30度くらいだろうか。老人は手の握力が弱くなっており、物を落としやすい。タッチ面が垂直の場合は画面が見にくく、私など横浜駅ではタッチの際、パスを落とすことがある。

 システムを変えるということは利用者にこれまでの習慣、意識を変えるということで膨大なエネルギーを要する。お金と時間、そして当事者の熱意が必要なのである。企画者は新システムを導入する際、対象者の利便性を第一に考え、その目的を明確にして、机上の理論、概念だけで実施に移すのでなく、ある程度実験を繰り返して欠点を少なくしてから実施に移すべきである。さもないと大げさに言えば社会が大混乱を起こし、膨大な予算の無駄使いが起こるのである。昨今の例でいえば、マイナンバーカードの導入、新型コロナワクチン予防接種の予約、実施時の混乱など、枚挙にいとまがない。