2020年1月 豊田佐吉の夢:電動飛行機

2020年1月 豊田佐吉の夢:電動飛行機

トヨタ自動車の祖,豊田佐吉は1925年,世界一周可能な飛行機用電池として「100馬力(英国馬力HPなら74.6 kW)で36時間連続運転可能で,かつ重量60貫(225 kg), 容積10立法尺(278 ℓ)を超えないもので,工業的に実施できるもの」という条件で革新的な電池の発明に100万円懸賞金を出すと発表した.今の20~30億円に相当するとされる1). 95年も前のことである.100馬力,36時間は2685.6 kWhで,エネルギー密度は12 kWh/kg相当となる.現在,NEDOで進行中の「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業」(RISING 2)では,2030年に車載用蓄電池として500 Wh/kgの革新型蓄電池に見通しをつけることを目指している.実に豊田佐吉の設定した目標はこの24倍である.結局,これほどの画期的な電池はすぐにはできそうにもないということで,バッテリー発明奨励として50万円を発明協会に寄付し,発明協会の中にその評価をする研究室を設立したそうである2).佐吉の目標は未到達であるが,現在,ドローンの発展が目覚ましく,地形撮影その他の学術調査になくてはならないものになっている.間もなく,物流過程にも取り入れられようし,1~2人乗りのヘリコプターも登場するであろう.以上のような文章を2年ほど前,ある雑誌に執筆していた3),少し旧聞になるが,“電動航空機日本に期待”と題する新聞記事が大きく掲載された.米ボーイング社と経済産業省が去る1月,環境負荷が少なく静かな電動航空機の開発に向けた技術協力に合意したという内容であった4).最近は“空飛ぶ車”と言われているようで,国内外で活発な開発競争が行われている5).
少し話がそれる.私が以前から気になっているのは航空機からの排ガスである.ジェット旅客機に搭載する燃料の重量は大型機の場合,総重量の約40 %とか.たとえば、ジャンボ機(ボーイング747-400)の最大離陸重量は約400t( 本体重量:約180t,これに燃料と乗客・貨物・乗員重量が加わる) で,このうち約170tが燃料という(最大23万ℓ 搭載でき,これは200 ℓ 容量のドラム缶1,000本以上に相当)6 ).年間,何十万機ものジェット機が世界中を飛び回っていようが,それらから排出される排気ガス量は莫大であろう.大気圏の排ガスによる汚染を少しでも減らすために,佐吉の夢はかなわないものの,航空機のハイブリッド化は原理的に可能で,かつ利点はあるのだろうか.一度専門家に伺ってみたいものである.船舶のハイブリッド化もしかりである.環境汚染問題に敏感な人たちの間では例えば,ヨーロッパからアメリカに旅行する際に航空機は使わず船で移動することが行われているようである.
 
引用文献
1) 朝日新聞,2017年12月6日朝刊.
2) http://www.cordia.jp/2012/06/14/%E8%B1%8A%E7%94%B0%E4%BD%90%E5%90%89%E7%BF%81%E3%81%AE%E6%96%B0%E5%9E%8B%E9%9B%BB%E6%B1%A0%E6%87%B8%E8%B3%9E/
3) 佐藤 祐一,「近未来電池の展望(上)」金属,275 (4),88 (2018).
4) 朝日新聞,2018年8月19日,朝刊.
5) 日本経済新聞,2020年1月1日,朝刊.
6) http://skyshipz.com/wings/d020.html