2014年10月 弛まないネジ(その2)

2014 10月 弛まないネジ(その2)*
先に紹介したようにらせん状に溝の切ってあるネジは時間の経過とともに振動等で緩むのが大きな欠点である.しかし,弛まないネジが発明され,いろんな分野に急速に広まろうとしている.発明したのは
道脇裕氏というまだ37歳の男性で
Neji Law (ネジろう)」という従業員10名のベンチャー企業(東京.江東区)の社長である.
 道脇氏は10歳ごろに「僕は今の教育システムに疑問を感じるので,自分の足で歩むことに決めました」と一方的に小学校に“休学宣言”をした.以来,漁師,とび職など様々な仕事を経験しながら,常に自分の頭で考えて行動を決めてきた.携帯電話が広まる前から,無線機を使って双方向で同時通話できるシステムを作るなど,学校にいかなくても発明を続けた.米国に渡って学んだこともある.弛まないネジは道脇氏のひらめきとこだわりから生まれた.きっかけのひとつは19歳のころ,ネジが原因で自分の運転する車のタイヤが外れたことだったという.従来も「弛まない」を標榜するネジはある.だが,道脇氏は既存の商品は締め付ける摩擦力に頼る「緩みにくい」ネジだったとみていた.そこで,らせん構造そのものにメスを入れ,摩擦に依存しない「弛まない」ネジを実現しようとした.NejiLawの主力品である「L/Rネジ」のボルトには,右回りで締めるナットと左回りのナット,両方に対応した山が作り込まれている.2つのナットは同じ動きはしない.互いがぶつかると,相手をロックすることで緩みを封じる. 
 道脇氏はネジの山の形を変えることで,用途に応じた弛まないネジを次々と発案した.だが道のりは平たんではなかった.「こんな難しい構造は作れない」.製造を委託しようにも金属加工メーカーからは断られた.そこで自ら製造工具や光学的な品質検査手法を開発し,商品化に道をつけたという.「L/Wネジ」のサンプル価格は長さ10センチに満たないボルトとナット2つのセットで10万円前後.通常のネジと同じように材料やサイズは自由に変えることができる.L/Rネジの開発途上だった4年ほど前,米航空宇宙規格 (NASA)に準拠した試験をすると,合格ラインの17分間まったく緩まなかった.それどころか,3時間ほどたつと試験装置のネジが壊れた.緩まぬネジの評判はたちまち広まった.量産すれば,通常のネジと同水準の価格で市場に供給できる.そのためには工場敷地,量産機械設備の導入等に巨大な資本が必要であるが,ようやく道脇氏には国や企業の関係者が協力を惜しまなくなったという.橋梁の現状がある.老朽化が進み,架け替えや補修が必要となっている.弛まないネジを使うことができればメンテナンスの手間が減り,溶接作業を減らして建設コストの削減にもつながる.福井県鯖江地域の企業と進めるメガネへの利用も近く実現する見通しという.用途は限りなくひろい.大いなる発展を祈りたい.ふと思い出し,私の椅子の裏側を見たら,案の定,ネジが緩んでいた.締めなおそうかとも思ったが,道具箱からネジ回しを取り出すのも面倒くさいし,落ちたネジを拾う楽しみもなくなるのでそのままにしておいた.あと数日で抜け落ちることであろう.この椅子に弛まないネジが取り付けられることはないが,弛まないネジの普及に期待したい.
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