2020年2月 早春

2020年2月 早春

  どこからか聞こえ来る歌早春賦  祐一
 2月は私のもっとも好きな月である.もう異変ではなく暖冬が常になったとはいえ,未だ,朝晩の寒さは厳しい.しかし,おかげで夏とは異なり,足腰はしゃんとし爽快である.生まれ育った越後の2月はどんよりと曇った日々が続き,時々吹雪いた.それでも正月頃に比べて日足が伸び,たまに晴れた日には長く伸び切った氷柱の先端から水玉が落ちて,トタン屋根の雪のない部分で音を立てていた.今では想像もつかないが,60〜70年前は,雪が未だ1メートル以上,時には2メートルもあった.早く春が来いと希ったものである.雪がようやく解けた3月,と言っても固く踏み固められた雪道を近所の人総出で人力で地面を掘りだしたのであるが,夕方下駄を履いて,風呂屋に行けるようになったのがどんなにうれしかったことか.カタカタと音を立てて小走りに歩いたものである.18歳の時,仙台へ,ここで12年近く過ごしたが,やはり冬は雪こそ少なかったものの寒かった.このように30歳近くまでの冬の記憶がしっかりと脳に染みついたためか,春の予兆を感じさせる2月が好きになったのであろう.
 記憶と言えば,最近面白いTVを見た.ノンアルコールビールやノンアルコールワインを飲んでも気分が高揚するという内容だった.グラフの縦軸に気分の高揚度合い(正確な表現は忘れた),横軸に時間を取り曲線を描くと本物のビールを飲んだ場合とほぼ同じ挙動を示すという内容だった.原因は正確にはわからないが,アルコールを飲んだ際の記憶が脳にとどまっていて,それがノンアルコールビールを飲んだとき呼び起こされるのであろうということであった.私にも経験がある.2年ほど前,初期の胃癌の手術後数か月間,アルコールを禁じられた.この間に同期会だったか,忘年会だったか,アルコールを飲む機会があって,やむ負えず(というわけでもないが)ノンアルコールビールを飲んだ.製造技術の進歩のおかげで,わいわいやっているうちに本物のビールの味との区別が付かなくなり良い気分になったことがある.そこで,疑問がわいた.ノンアルコールビールを飲んで良い気分になってから車を運転したらどうなるのだろう.やはり運転技術,判断力が鈍るのだろうか.もし,そうなら事故を起こす可能性がある.このような分野の研究はどうなっているのだろうか.
 今,厚木の庭に咲いているのは白い水仙,椿,福寿草である.椿は薄いピンク色で花弁の一部に若干濃い紅色の筋が入っている.“越の麗人”という名前で,もう40年以上も前に園芸店から購入したものである.背丈3 メートル近い大木になってしまった.挿し木で増やした分身が椿の好きだった郷里のK君の庭にもある.また,2本の梅の木がそれぞれほんの数輪咲いている.あまりにも枝が伸びすぎて大木になったので,昨年暮れ思い切って剪定したためである.枯れなければよいがと少し心配している.幹に取り付けている巣箱が露になった.シジュウカラが今年も来てくれると良いが.水仙フリージア,アイリスなどの芽が力強く伸び始めている.どんどん春が近づいている.2月はこのような春の予兆なのである.