2017年6月 床屋の流儀

20176月 床屋の流儀
 
 毎月1回,10数年にわたってお世話になっていた床屋をついに変えてしまった.伊勢佐木町にあるその床屋はマスターと奥さんと通いの男性,女性の4人で流行っていたが,数年前から少し体の調子の悪そうだった奥さんが店に出なくなった.また,男性がいなくなり,マスターと女性2人になってしまった.マスターは非常に丁寧で腕がよく,この人に頭を刈ってもらうと髪の毛の伸びが遅いようで,次に行く間隔が1か月半くらいに伸びた.その代わり散髪時間も他の人より10分くらい長かった.マスターに当たるのは運次第.ある時,順番を待っている先客が一人いた.女性の刈手の客が終わったとき,その人は「自分はマスターに刈ってもらいたいからお先にどうぞ」と譲られたこともあった.しかし,寄る年波か,そのマスターが今年の初めころから,店から引っ込んでしまい,刈手は女性2人になってしまった.それでもその店は繁盛しており,いつも2, 3人順番待ちである.開店は朝9時,私の家からは5分くらいであるから,9時を目指して,数分前に店に行くと未だシャッターは閉まったままなのにもう2, 3人が店の開くのを待っている.これでは自分の番はあと,40- 50分後になるから,店内で待っているのもばかばかしいので家に戻り,次の番の時間を見計らっていくとまたも2, 3人順番を待っている.仕方がないから家に引き返すことを2, 3回繰り返し午後になってからようやく刈ってもらった.こんなことを数か月繰り返した今月初め,何もこの床屋に固執することはないなと思い直し,そこから数百メートル離れた別の床屋に行った.そこは回転いすが5-6台あり,まだ空いている椅子もあり,すぐ刈ってもらった.帰るときカードを渡された.1か月以内に再訪すれば100円引きとのことであり,カードには・バリカンを少し入れる,・眉毛の下は剃る,・髪は右分け等々散髪時の心覚えがいくつかチェックしてあった.なかなか合理的で気に入った.いつも床屋に行くと髪はどのくらいにしますか,バリカンは? 最後に何を付けますか等々,さすがにマスターはプロ,数十人と思われる常客の髪型,癖等をすっかり記憶しており,何も言わなくてもよかったが,他の店員の時は毎月同じことを聞かれたから,この辺で店も変え時かなと思っていた.
 高校時代までよほどのことがない限り,散髪はバリカンで母にやってもらっていた.経費節減のためである.時々,虎狩になった.大学1年の5月だったか,6月だったか,初めて生協の床屋に行った.70円だった.髭を剃ってもらっていた時,刈手の若い女性から突然「お客さん,眼を閉じていてくれませんか」と言われた.自分は意識するともなく彼女の顔をぼんやり眺めていたらしい.美人だったかどうか,顔つきなどもすっかり忘れているが,それ以来,床屋で髭を剃ってもらうときは眼を閉じている.
 学会で京都に行った時である.床屋に行くタイミングを逸し,あまりにも髪の毛が伸びすぎて鬱陶しくなったので,学会が終わってからか,途中だったか忘れたが,床屋に行った.びっくりしたのは髪を洗ってもらった時である.それまで髪を洗うときは洗面台の方に前かがみさせられていた.ところが,この時は回転椅子を急に鏡と反対側に反転させ,洗面台の方に仰向けにされ天井を見ながら,髪を洗われたことだった.京都や関西方面ではどこもこのような方式なのだろうか,確かめようと思いつつも果たせないでいる.
 十数年前,カナダのハリファックス3か月間滞在した時,2回ほど床屋に行った.おどろいたのは,はさみで髪の毛を切るだけで髭剃りがないことだった.万一,カミソリで顔に切り傷を付けたときエイズの感染を避けるための防御措置とのことだった.なんと我が国の安全なことかとつくづく思った.
 
追記
 3月分までの文章をまとめ出版しました.ご高覧いただければ幸いです.
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