子供の四季  三月

これまでその季節でなければできない特徴的な遊びを述べてきたが、これから季節にとらわれず思いつたときにやった遊びの幾つかを述べる。
 
  釘さし
2人でちょっとした地面があればよく行った。各自、五寸釘を用意する。
地面に小さな三角を書いてから、じゃんけんで順番を決め一番目の子がまず釘を地面に打ち付けるように振り下ろして、三角形の外側のじめんに突き刺す。そして、突き刺さった釘を抜き、その痕の穴と三角形のいちばん近い頂点とを直線で結ぶ。次にまた釘を打ちおろして突き刺し、三角形を取り囲むようにクモの巣のような形に次々線を延ばしていく。失敗して、釘が倒れたら次の子が釘を打ちおろして突きさす。この時、まず狙って突き刺す場所は、すでに先の子によって三角形の周りは線で囲まれているから、できるだけ早くこの囲みから抜け出すために、三角形の他の頂点に近いところである。そして、直線しか引けないから、前の子のひいた線と交差しないように次の場所を狙って突き刺す。早く、先の子の引いた線の囲みから抜け出すためにかなりの技術が要った。先の子は後の子が抜け出せないようにできるだけ細い幅となるように狙って打つ。後の子がもし、囲みを抜け出すことができたら、今度は先の子を閉じ込めるように次々突き刺していく。幅が狭くて、どうしても抜け出られるような隙間がなくなり、閉じ込められたほうが負けである。釘の持ち方、投げ方に工夫が要った。釘の頭に利き腕の人差し指の平を当て、親指と中指ではさんで投げると狙った場所には投げおろせるが力が入らず、地面が固いと倒れることが多かった。また、親指の側面と人差し指の側面で釘の頭の近くを挟むように釘を寝かせて持ち、投げるときは手首のスナップを利かせ、手裏剣を投げるように地面に打ち付けるように投げると力が入り、よく突き刺さった。しかし、この方法はコントロールが難しかった。子供のころはこんな単純な遊びに夢中になれるのである。いまなら、釘が体や目に刺さったら危ないからと母親たちはこんな遊びは許可しないだろうに、当時はまったく自由だった。親たちは日々の仕事に忙しく、子供がどんな遊びをしているのかなど目を配る余裕などなかったのである。また、親も子供のころ経験があるから、この程度では事故など起こらないと安心していたのであろう。