子供の四季  四月

子供の四季 四月
 
  ぐすでっぽう (コメ鉄砲)
 今でこそ花粉症の元凶と恨まれている杉の木であるが、今ころになるとこの杉にたくさん生る小さな米粒のような実が、子供たちのまたとない遊び道具だった。細いシノダケを近くの里山から採ってきて、長さ15 cmくらいに肥後守(ひごのかみ、ナイフ)で切る。一方、このシノダケの穴に入るように竹を細く削って、籤(ヒゴ)を作り、これを別の節の付いた長さ3 cm 位の短いシノダケの孔に突き刺し、籤が抜けないようにしたのち、籤の部分の長さをはじめの15 cmのシノダケより、米粒状の杉の実の長さ1粒分くらい短く切り落とす。これで鉄砲は完成。そこで、まずシノダケの孔に一粒の杉の実(コメといったように思う)を詰めたのち、籤で押し込みながら、シノダケの穴の先端まで移動させる。次に2個目のコメをシノダケの孔にいれ、同様に籤で押し込んでいくと穴の先端は1個目のコメでふさがれているから、2個目のコメとの間の孔の中の空間が狭まるにつれ、中の空気が圧縮される。籤の長さ加減、コメつぶの大きさとシノタケの穴の太さなどがよくマッチしたとき、1個目のコメは空気銃のように「プチッ」と小気味よい小さな音を立てて飛び出す。籤を押し込む速さが適切なら、うまくいけば数mは飛んだようだ。次のコメを詰め、籤で押し詰めるとトコロテン式に弾が飛び出すことになる。子供たち同士、遠くまで飛ばしっこをしたり、打ち合って遊んだものだ。頬に当たるとちょっと痛かった。どうも記憶が薄れていて自信がないが、ぐすでっぽう、あるいはコメでっぽうと言ったように思う。
 それにしても昔は花粉症などなかった。私の同僚だった井川学教授の研究室では卒論テーマとして、杉その他の植物の花粉を採取し、これに吸着している化学物質の分析研究が展開中であった。花粉にはいろんな化学物質を吸着する性質があり、この物質を含む花粉が鼻から入ると、人によっては花粉症を引き起こすのである。最近、品種改良(?)され、花粉を付けない杉が出来つつあるそうな。しかし、これでは本末転倒である。花粉が悪いのではなく、人間が作り出した大気汚染環境が悪いのである。その浄化こそ第一に考えるべきであろう。このように、その源を断たずに対象療法的に屋上屋を重ねるような科学・技術が気軽に利便さのみを求めて使われている場面はないだろうか。