2016年6月 ゲームをめぐる親子の攻防

20166月 ゲームをめぐる親子の攻防
 
 息子の長男は現在中学2年生で彼の頭の中を占めている最も大きな課題はゲームのことである.とにかく,中毒症状のようにゲームがやりたくてたまらないらしい.小学性低学年の頃は,両親からゲームは禁止,ゲーム機を買ってもらうことなどとんでもないことだった.彼は友達のところに行ってはゲームをやっていたらしい.何回か直訴の末,ようやく小学6年生のときクリスマスのプレゼント(20151月参照) に勉強も一所懸命やるという約束でタブレットを買ってもらった.今では“公文”等の学習塾の問題の解答もタブレットを通して行うシステムが出来上がっていて,どうしても学習の必需品になっているようである.その気になればこれを利用し無料ゲームソフトは入手でき,ゲームができるようになる.そこでダウンロードできるソフトは1つのみ,ゲームをやっていい時間は一日,一時間と両親から厳しく言い渡されたらしい.しかし,これがどうしても守れない.親の目の届かないところで隠れてやっては見つかったり,公文の宿題の解答をするふりをしてゲームをやっては見つかった.そのたびにタブレットは取り上げられた.もう二度とこんなことはやりませんと誓わされ,1週間後にようやくタブレットは戻された.しかし,またも破られた.息子夫婦もこんなことの繰り返しにくたびれたらしい.今年の連休中に,どうしたらゲームをやっていい時間を11時間に守れるか親子で話し合った.「とにかく,お父さん,お母さんはこんなことにもう疲れた.自分でどうしたら守れるか,よく考え,これを文章にして書き出しなさい」と言われ,何回か書き直しを命じられ,ようやく下記のような内容がまとまった.
1.   1日のスケジュールは
  ・6時~630分:勉強
  ・730分〜17 30分:学校
  ・1830分~20時:勉強
  ・その後ゲームなどやってもよい.
2.   タブレットで勉強するときは消音にしない.(音声で問題等をやり取りするので消音にするとゲームをしているとみなされる)
3.   ゲームをやってもよいのは11時間まで.
4.   以上を守れなかった場合はこれを破った日から1週間ゲームを禁止する.
今の所少々グレイなところもあるが,何とか守られているらしい.
 40年ほど前の息子の子供のころは幸いなことにゲーム機はなく,私たちはこんな
苦労はせずに済んだ.ただし,孫の親である.こんなことがあった.息子が小学1
生のころ,妻が学校の宿題とは別に算数のワークブックを与え,1日何ページかを
らせていた.ところが,そのスピードが速すぎる.しかも答えは間違っていない.不
議に思い,妻がそっと扉の陰から覗いてみたら,彼はせっせと問題集の巻末の答
を写していた.その後妻は,問題集は解答を切り取ってから渡し,解答に誤りがあ
ばその間違いの数だけ,さらに問題をやるページ数を増やすことにした.これには
も困ったようだ.
 それにしても,今の世の中では子供も大人もゲームやスマホ中毒にかかって,考え
る力が失われ,どれだけ貴重な時間が浪費されていることだろうか.ただし新たな特
異な才能も育っているようである.神奈川大学では,毎年,全国高校生理科・科学論
文大賞を公募し,大賞論文1編,優秀賞論文3編,努力賞論文数編を選び表彰してい
る.毎年,全国の高校から90編前後の論文が集まる.私はこの3月まで審査員の一
人だった.昨年の優秀賞の一つに「パズルを解くアルゴリズム」と題する某私立高校
2年生のS君の論文がある.その内容は人気のスマホゲーム“パズル&ドラゴン(パズ
ドラ)”を解くアルゴリズムを解明し,パズルを解くための既存の市販のソフトウエアー
の性能を超える内容を作り上げてしまったというものである.この論文について審査
委員会ではその内容を理解できないということでほとんどの委員が評価を辞退した.
数学に堪能な一人の審査委員が「自分にもその内容の細かいところまでは理解でき
ないが,大きな可能性を感じさせる,資質の優れた生徒である」と強く押された.私も
パズドラなど触ったこともなく,論文内容にもはじめの部分を除きついていけなかった
が,論文の書き方は論理的で結論も明瞭であり,今後の飛躍が期待されるとの感触
を得たのでその委員に同調し,強く推薦した.その結果,他の委員もそれではという
ことで優秀論文の一つに決まった.大賞,優秀賞,努力賞の論文内容は毎年「未来
の科学者との対話」と題して,日刊工業新聞社から出版されている.ただし,この論
文に限って,著者,指導教員のコメント以外,「本論文の内容から外れたことに応用
される恐れがあるために受賞論文内容の掲載は差し控えさせていただくことになりま
した」という編集委員会の注釈付きで論文は掲載されていない.指導教員のコメント
によれば,彼は2015年には国際情報オリンピック日本代表候補に選ばれたという.
このような才能が花開き,ゲームソフトにとどまらず,人口知能や世の中の仕組みを
変えるような素晴らしいソフトを開発してもらいたいと願っている.