2021年4月 ウイルス感染詐欺

    4月初めの土曜日の昼ころ、厚木の家1)で暇に任せてネットサーフィンをしていた。よせばよかったのに好奇心に駆られ、つい良からぬサイトに入った。しばらくすると突然画面が乱れ、Microsoftの画面が現れた。妙なメロデイが流れ、緊迫した声で「あなたのパソコンはウイルスに感染しました。放っておくとこれまでネット通販で利用した各種カードの暗証番号が読み取られ、個人情報も流出します。直ちに記載されている番号に電話してください。至急、対処します」と繰り返し男性の声が流れた。これは大変と慌てて、携帯電話で記載されていた番号に電話した。すると中国人らしい訛りのある、少しどすのきいた男性の声が聞こえた。おかしな日本語で、よく言葉が聞き取れないので何回か問いただし、ようやく指示に従い、ソフトをダウンロードすると警告表示が消えた。そして、近くのコンビニで4万5千円のGoogle Play Cardを購入し、入手したら、また電話するようにとのことだった。そんな金額の持ち合わせもなく、近くにコンビニもない。仕方なく、横浜のマンションに戻ることにした。厚木と横浜間は38 km、車で約1時間半は掛かる。途中、2回ほど、カードの購入は未だかとの催促の電話が入る。「車で移動中、渋滞しているからあと1時間は掛かる」と時間を引き延ばした。ようやくマンションに到着、現金を用意し、近くのコンビニでカードを購入して帰宅、先方に電話した。カードの番号を覆っている部分を硬貨で削り取り、現れた16桁の記号を伝えた。しばらくすると「これからウイルス除去作業に入ります。しばらくお待ちください。パソコンは切らないでください」と電話が掛かって来、電話が切れた。5分位の間をおいてまた電話が掛かってきた。「お客様、お待たせしてすみませんでした。私の作業ミスで復旧ができなくなりました。上長に相談したら、すぐ返金するようにと言われました。これから、現金書留で送金します。明日の午後には届きます。今、表れているパソコン画面の指定枠内にあなたの住所、氏名を入力してください」。住所を入力しようとしたが、ちょっとおかしいな、今日は土曜日、明日は日曜日、郵便が届くはずもないと気づいた。その旨を先方に伝えると「月曜日には必ず届きます」という。「お客様、住所の入力をお願いします」と急かし、続けて「お客さま、今すぐ、コンビニから1万円カードを4枚買ってきてください。これで、別の技術者がウイルス除去作業に入ります。」と言う。「4万5千円は返金しなくてもいいから、これを当てればいいのに」と言ってもらちが明かない。ようやく詐欺だと気づいた。直ちに電話を切り、PCの電源コードを抜いた。そして、PCを横浜駅地下街のヨドバシカメラに持参し、ウイルス除去作業の依頼をした。応対してくれた女性店員が「最近、この種の詐欺が多いんですよ。電話番号が現れてもけして電話はしないでください。そして、PCの使用説明書に記載の電話に掛け相談するか、あるいはPCを当店にお持ちください。今、非常に込み合っていますので、すみませんが1週間から10日間待ってもらえますか。」と言う。返事をしなければならないメールも何通かあったが、や無負えないとPCをおいてきた。どうにも悔しい。2,3日あれこれ考えているとき、ふと数週間前の朝日新聞に“ウイルス感染警告”の記事が載っており、その切り抜きを机の引き出しに入れておいたのを思い出した。早速、切り抜きを取り出し、改めて記事を読んでみると、まさにこちらがやられたとおりだった。その記事は消費者庁が注意を喚起したもので、以下の内容だった。

 偽の警告はMicrosoftロゴとともに突然現れ。大音量の警告の中、「ウイルスが見つかりました。当社にすぐ電話してください」などと表示される。電話すると、遠隔操作ソフトを導入させた上で警告表示を消して信用させ、「セキュリテイ保護のサポートが必要」「5年で6万9千円」などと勧誘し、コンビニなどで前払い式の電子マネーを購入させる手口だという。

 私のは、まさにこれだった。全国の消費者生活センターに20年は計568件の相談があった。私のような泣き寝入りも含めるとその数倍の被害があるのではないか。平均支払額は約15万円で、最高額は278万円という。同庁は「絶対連絡しないで」と呼び掛けている。警告画面は「CTRL」「ALT」「DEL」の三つのキーを同時に押して、「タスクマネージャー」を起動し、「タスクを終了」を選ぶと閉じることができる。閉じない場合は、マイクロソフトカスタマーサービス(0120-54-2244)へ。

 別の日の朝刊の「特派員メモ」欄に、ロンドンでも同様の詐欺が流行っているという記事が載っていた。危うく筆者は「指定されたリンクから検査ソフトをダウンンロードして」という指示に従おうかとしたが思いとどまり事なきを得た。私より用心深い。

 10日後、無事復活したPCが戻った。手数料は15,400円、先のカード金額と合わせ、合計約6万円の高い授業料だった。PCがないと不便で、不安、かつ時間を持て余す。こんなにも深くPCが生活の中に入り込んでいるのかと実感した。有り余る時間はネットサーフィンなどに費やさず、ボランテイアーとか何か新しいことに挑戦するのに使えばよいのであろうが、凡人の悲しさである。

 

1)厚木に40数年前、家を建てたが、通勤時間がかかりすぎるので24年前、横浜にマンションを入手、土、日のみ厚木に行っている。