2019年5月 烏との攻防

20195月 烏との攻防
 
     ごみ漁る烏を叱る冬の朝   祐
 この数年,烏に悩まされている.我が家の地区の生ごみの収集は毎週,火曜日と土曜日である.この日の朝,あるいは不心得ものは前日の夜のうちにビニール袋等に入れた生ごみを定められた場所に出しておく.それを午前8時ころ,市のごみ収集車が持っていくのである.朝,ラジオ体操に行く前にこの収集場所を見ると,必ず烏が数羽,くちばしでごみ袋を破って中から,生ごみを引っ張り出し食い散らかしている.周囲はごみだらけ,これを掃除してからラジオ体操に行くことを数年間続けている.ラジオ体操から戻ると,また,散らかっていることも多い.私は未だ経験がないが,烏は人の顔を覚え,強く叱るとその人を襲ってくるとか,昨年のことなのに覚えていて今年もまたやられたとラジオ体操仲間の一人が言っていた.烏は賢いとはよく聞く話である.クルミを車に轢かせて.殻を割ってから中身を食べる習慣(知恵)仙台市の川内地区の道路から始まったと数十年前の「科学朝日」で読んだことがある.私も学生時代よく通った東北大学教養部のあるところである.
以下はかって,津波でやられる前の岩手県大槌町に職場のあった息子から聞いた話である.車通勤していた彼が海際の道路に通りかかると道路の真ん中に居座る烏をしばしば目にしたとか.近づく車に慌てる様子もなく,烏はくわえていた貝を道に置き,ピョンピョンと道端に移動してから,期待のこもった視線を送ってくる.烏の狙いを知っている彼はひょいと貝殻を避けてやり過ごしてからバックミラーで確認すると,烏は恨めしそうにこちらをにらみつけていたとか.この辺,少し嘘っぽいが,烏が車に貝殻を轢かせてから中の身を食べるのは確かなようである.例の東日本大震災のために彼の勤務先の建物は津波にやられ,長い間無人になっていた.春になると烏は建物内のパイプ周りの断熱材をくちばしでむしり取り,巣作りのために持っていった.周りは散らかるし,困った彼は知人の宇都宮大学の「カラスの専門家」に相談したところ,“警告文”を出してみてはとのアドバイスを受けた.冗談だろうと思ったもののほかに良い知恵もなく,試しに「カラスの進入禁止」と書いたビラを何枚か,ガラスの割れた窓やその辺につるしたところ,果たしてカラスが建物内に入ってこなくなったという.烏は文字が読めるのではなく,警告文を目にした通りがかりの人たちが,不思議に思って,その辺の頭上を飛びかう烏を見上げたり,指さしたりすることに警戒して寄り付かなくなるらしいとのことである.この効果はここ数年続いているとか.新聞にも取り上げられた*1
 さて,こちらの生ごみ対策の方である.まさか,警告文を出すものはばかられたので,マンションの管理人さんにお願いして,出されたごみ袋類を覆いかぶせるためのネットを購入してもらった.言い出した建前上,私が朝,ごみ袋の上にネットをかぶせ,収集車がごみを持ち去ったあとはそれを撤去している.さすがに細かいネットの穴からごみを取り出すのは烏には無理のようで,今のところ効果が出ている.ただし,困るのは,ネットを持ち上げ中にごみ袋を押し込めばよいのに無精をし,ネットの上にそのままごみ袋を置いていく不心得もののいることである.これには往生である.烏がこれをつついてまた散らかしている.
 この辺に烏が非常に増えたのはこの生ごみと鳩等への撒き餌のためであろう.烏が撒き餌のおこぼれを頂戴しているのである.毎朝ラジオ体操でお世話になっている阪東橋公園と我が家の近くから関内まで続いている大通公園には“鳩や野鳥に餌を与えないで下さい”と書いた看板があちこちに立っている.しかし,これを無視して餌を与える人が絶えない.通りがかりにこれを見つけると妻はよく看板を指さしながら注意しているが,効き目はない.「だって,鳩がかわいそうでしょう」と言い合いになっている.このような人はきっと寂しいのであろう.掌に鳩を止まらせて得意げな人もいる.
ハンガーの透けて見えるや烏の巣   祐
この頃の烏の鳴き声は「あー,あー」と聞こえる.妻がよく「へたくそだね」と言う.親も生活に追われ,子烏に正しく鳴くことを教える余裕がないのかもしれない.それともウグイスのように「キョ,キョ,キョ」と初鳴きは下手でもだんだん上手になっていくのだろうか.ある時,烏が9階の我が家のベランダの植木鉢に罪滅ぼしのつもりかソウセージを置いていった.
 
*1) 朝日新聞2017516日付け夕刊