2014年9月 弛まないネジ
家で使っている私の回転椅子から,毎月,約束したようにネジが1本抜け落ちる.お尻の乗る回転部と脚部を接続するために4本のネジで回転部の下側から両者が固定されているが,そのうちの1本が,私が貧乏ゆすりをしたり,背もたれを振動させたりしているうちに弛み落ちるのである.落ちるたびにこれを拾い十字ネジ回しで締め付けている.その際弛んでいる他のネジも締めなおす.4-5年前,1本のネジが抜け落ちているのに気付き,捜したが見つからず,これのみ後家さんである.ホームセンターや金具屋をいくつも捜したが代替ネジが見つからず困っていたが,ようやく近所にネジ専門の問屋を見つけた.その際,残っていたネジの1本を抜いて見本に持って行ったところ,店の女主人に「これは特殊な規格でなかなかないでしょう」と言われた.抜け落ちるのは幸いこのネジではない.
家の中にはいろんな場所にネジが使われている.玄関のドアーはバネで自動的に閉まるようになっているが,これを支えているバネ部分の固定ネジも半年位ごとに抜け落ちるのでそのたびに下に落ちているネジを暗がりから探し,締め直している.ちょっと複雑な構造で,なかなか復元できず,隣のお宅のドアーを見せてもらい,それを記憶してもどり直している.
洗濯機収納場所を外から見えないようにしている回転ドアーを支えているネジが数年前抜けてしまった.ネジをはめ込み締め直すには,ある程度,内側に体を入れる隙間が必要であるが,重い洗濯機を外に出すのは妻と2人の力ではかなわず,家具屋さんに来てもらった.また,台所の流しの下の収納庫の扉を支えているネジも何回か抜け落ち,そのたびに締め付けているうちにネジ山が削られてしまい,これも私の手に負えなくなり,上記の家具屋さんに来てもらった.妻はネジを締めたら瞬間接着材を塗れと乱暴なことを言っている.しかし,万一何かの折にネジを緩めたいとき,接着剤が塗ってあればもう手に負えないからとこれは断固拒否している.こんなおりにいつも,どうして狭い空間に付ける扉をドアー式にせず,日本家屋に昔からあるふすまや障子戸のように引き戸にしないのかと思う.もう昔のことになってしまったが,私の勤務していた大学で工学部棟が新築された.各研究室内の設計・デザインは研究室主宰教員に任された.私は教授室と学生の居室や実験室等の境の扉はすべて引き戸にした.回転式では扉を開閉するための空間が必要であり,その部分には本棚その他の物を置くことができずデッドスペースになってしまう.各研究室に割り当てられたスペースは狭く,数10 cm角のスペースも貴重なのである.あとである同僚から「佐藤さん,うまく考えましたね」と言われた.
もう30数年前のことになるが,厚木に住んでいたころ,近所にOさんというソニーに勤務しておられる方がいらした.当時,私は東芝で職場こそ違うものの共通の話題が多く,通勤途上で一緒になるとよくいろんな話をした.同じ電機メーカーでも職場の雰囲気がずいぶん異なるものだなと実感した.そんなOさんがあるときふと「今,ソニーではネジのゆるみが問題になっている.どこかにゆるまないネジがありませんかね」と言われたのを覚えている.
ところが日本人の発明による弛まないネジがあるのである.詳細は次回に.